
書籍情報
項目 | 内容 |
---|---|
書名 | 押入れの奥から拍手がする |
著者 | 布団 圧蔵(ふとん・あつぞう) |
分類コード | うそデュー 839.1(視聴者系怪異) |
所蔵場所 | 図書館南棟「日常の奥」棚 |
備考 | 読後にうっかり拍手してしまう読者が続出。静音閲覧推奨。 |
ふるすじ
“ふるすじ”とは、冒頭からオチまで物語の全てをギュッと縮めたものです。
フルのあらすじ=略して、ふるすじ。
小学5年の夏休み。両親の都合で、僕は祖母の家に預けられることになった。
昭和の名残をとどめる古い和室には、ふすまの大きな押入れがあった。
畳と扇風機と、なぜか床に置かれた表彰状の額縁。
そして夜になると、「パン……パン……」と、奥から聞こえる拍手。
「気のせいだよ」と祖母は言った。
でもその晩も、その次の晩も、決まって午前1時になると拍手が起きた。
僕は怖くなって、昼間に押入れを開けてみた。
掛け布団、古い衣装箱、見覚えのないランドセル。
でも特に“何もない”ことが逆に不気味だった。
そしてある日、ついに押入れの奥から小さな紙が出てきた。
「よくできました。すばらしい発表でした。」と印刷された謎の表彰文。
……僕は、何も発表なんかしていない。
祖母に見せると、顔をこわばらせて言った。
「それ、おまえのお父さんももらったことがあるよ。
あの子も夏休みに、押入れでなにかを“披露した”らしいから。」
夜。
僕は試してみた。
懐中電灯をつけて、押入れの前に座り、絵本を読み聞かせるように声に出して読んだ。
……すると、奥から「パン、パン、パン……!」といつもより多い拍手。
でも、やめられなくなっていた。
翌日も、その次も、僕は押入れに向かって何かを披露した。
折り紙、なわとび、即興の歌。
拍手は、どんどん大きく、早くなっていった。
そしてある夜、拍手の直後に、ふすまが少し開いた。
暗い中で、“こちらを見ているようなシルエット”があった。
拍手は止まった。
代わりに、小さな声がした。
「次は……何を見せてくれるの?」
僕は、その夏の記憶をよく覚えていない。
ただ、今でも、押入れを見ると拍手が聞こえる。
きっと、誰かがまだ、僕を応援してくれているんだ。
きっと。
たぶん。
おそらく──。
関連蔵書リンク
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