なでると、ちょっとだけ気まずい。
惑星基本情報
- 惑星名:モフラ星(正式名:MF-9)
- 位置:ひょどろん君航路 NY-5宙域
- 特徴:地表全体がふかふかの毛で覆われている、極めて手触りの良い惑星
- 自転周期:約28時間
- 重力:地球の0.7倍(やや軽い)
- 大気成分:酸素・水分・微細な毛繊維を含む(人体に無害/ただしくしゃみが出る)
特徴:星まるごと、毛
モフラ星の最大の特徴は、地面から山から、見渡すかぎりすべてが「毛」で覆われていることです。岩も、丘も、川底さえも、もふもふの毛足に包まれています。
- 毛足の長さは場所によって異なり、平野で10cm、山岳地帯では3mに達する。
- 風が吹くと、星の表面の毛が一斉に「逆立つ」。この現象は遠くの宇宙からも観測でき、ひょどろん君は当初これを「怒っている星」と記録した。
- 毛は定期的に「抜け替わり」を起こし、抜けた毛は風で集まって毛玉の渡り鳥のように空を移動する。
自然環境
ナデナデ平原
毛足のそろった広大な平原。風が一定方向に吹くため、毛が美しい筋目を描く。住民はここを歩くとき、必ず毛の流れに沿って歩く(逆らうと静電気で髪が逆立つため)。
モジャ山脈
毛足3mの長毛地帯。一度迷い込むと方向感覚を失うため、地元では「分け入る山」と呼ばれる。遭難者はたいてい、毛に埋もれて気持ちよく眠っているところを発見される。
ツムジ湖
湖の底から毛が渦を巻いて生えており、水面に巨大なつむじを作る。つむじの中心をのぞき込むと願いが叶うとされるが、のぞき込むと髪がぼさぼさになる。
ケダマ街道
抜け毛が集まってできた毛玉が、ころころと一定のルートを通って移動する道。住民は移動中の大きな毛玉に飛び乗って、遠くまでヒッチハイクする。
最大の社会問題:静電気
毛に覆われた星で暮らす以上、避けて通れないのが静電気です。モフラ星では、握手をすると必ず「バチッ」とくるため、挨拶は握手ではなく「3秒間、空中で手を近づけて見つめ合う」という独自の様式に進化しました。
- 住民は全員、指先に「放電チャーム」という小さな金属の飾りをつけている。
- 恋人同士が初めて手をつなぐ瞬間は、人生最大の「バチッ」を覚悟する儀式とされる。
- 静電気を完全に克服した者は「無帯電(むたいでん)」と呼ばれ、聖人のように扱われる。今のところ歴史上3人しかいない。
人々の暮らし
住居
家は毛を刈り取って作るのではなく、毛を「編んで」作る。毛が伸び続けるため、家は年々ふくらみ、古い家ほど巨大でふかふか。築100年の家はもはや小さな丘である。
身だしなみ
朝の身支度の9割は「自分と地面の毛を整えること」に費やされる。出かける前に玄関先の毛をとかすのが礼儀で、ぼさぼさのまま外出するのは「だらしない人」とされる。
食事
食べ物にどうしても毛が入るため、彼らは「毛が入っていること」を前提に料理を発展させた。名物は、あえて毛を練り込んだ「もふもふパン」。口の中でほどける食感が自慢。
地球の人は「毛が入ってる!」って驚くらしいですね。こっちでは「毛が入ってない料理」のほうが不気味で、誰も手をつけません。
メモ:ひょどろん君航行記録より
「モフラ星に着陸した瞬間、機体がぼふんと毛に沈んだ。離陸しようとしたら毛にからまって、しばらく抜け出せなかった。気持ちよくて、正直、もう少しこのままでもいいかと思ってしまった。」
ひょどろん航行日誌・第108章より
惑星に古くから伝わる昔話
『けがわのうえの王さま』
むかしむかし、モフラ星に、毛をいっぽんも持たない王さまがいました。
つるつるの王さまは、星じゅうのだれよりもおしゃれで、毛のからまない、すべすべの服を着ていました。
王さまは言いました。
「毛などきたない。わたしの国から、毛をぜんぶ刈り取ってしまえ。」
家来たちは毎日いっしょうけんめい毛を刈りました。
けれど毛は、つぎの朝にはまた、ふさふさと生えてくるのです。
ある寒い夜のことでした。
すべすべの服を着た王さまは、ぶるぶると、ふるえていました。
毛のない王さまには、寒さをふせぐものが、なにもなかったのです。
そのとき、刈られても刈られても生えてきた毛たちが、
そっと、王さまのまわりに集まってきました。
そして、ふわりと、王さまをくるみました。
あたたかさの中で、王さまは初めて気づきました。
「きたないと思っていたものが、わたしを守ってくれていたのか。」
つぎの朝、王さまは刈り取りをやめました。
そして、自分の頭にも、ちいさな毛が一本だけ生えているのを見つけて、
うれしそうに、そっとなでたそうです。
いまでもモフラ星では、寒い夜に毛にくるまるとき、こう言うのだそうです。
「きたないものなんて、ほんとうは、ひとつもないのかもしれないね。」
