『脳内メーカー手動説』 | 脳内ショートショート劇場

脳内メーカーをテーマにした小説集『脳内ショートショート劇場』の第1弾。

タイトル:『脳内メーカー手動説』
ジャンル:ブラックコメディ・都市伝説風・ジワ怖系
字数:約830字

目次

【小説本文】

「お前さ、知ってる?」

夕方のハンバーガー屋で、柴田がポテトをつまみながら言った。

脳内メーカーって、手動らしいよ
なんか、人が一文字ずつ選んで打ち込んでるって」

「は? アホか」

俺は笑いながらアイスコーヒーをすすった。

「いまどき、そんな昭和みたいな手作業あるわけねーだろ。
それよりパチンコでも行こうぜ。今日はフィーバー来る気がする」

「……マジなんだって。友達の友達がバイトしてるって……」

「都市伝説な。ネットの情報に毒されすぎ」

そう言い捨てて、俺はポケットからスマホを取り出した。
柴田も同調するように自分のスマホを手に取る。

「えっと、今日の脳内メーカーは……【金・酒・逃】。
おいおい、バレてんじゃん俺の生活」

そう言って笑う柴田。
俺は気まずさを打ち消すようにハハッと笑った。

◆ ◇ ◆

その夜、俺は職場にいた。

地下の無窓ビル。
蛍光灯の白さがやけに冷たい、脳内選定センター 第2打刻部

『ID427001、名前“柴田タクミツ”、漢字セット【金・酒・逃】』

俺はモニターに表示されている履歴に目をやり、ため息をついた。
“打刻者”の欄には自分の名前。
そして、キーボードに手を乗せたまま、再びため息。

低賃金。
深夜手当もないし、トイレは紙持参。

でも、仕方ない。
ギャンブルで作った借金が、まだあと148万残ってる。

“感情候補漢字リスト”が表示される。
今度は「リサ」という名前。
表示された候補は「恋」「食」「病」「悩」「空」。

「よし、全部『病』にしてやるか」

前にフッた元カノと同じ名前だったから。

我ながら行動がゲス過ぎる。
でも仕方無い。劣悪な環境がこうさせてるのだ。

夜ごと、そうやって漢字を送っていく。
人の心のふりをした、俺の気分だけで。

……ほんとは、誰の脳内も見えやしない。
当然っちゃあ当然。
でも、誰かがそれを信じる限り、俺たちは今日も入力し続ける。

「バイトリーダー、そろそろ上がってもいいですか?」

「おう、そんじゃ最後の1件頼むな。次は“カナエ”」

「了解っす。“愛・夢・闇・母・海”あたりでいきまーす」

俺たちは、今日も脳内を作っている。
──時給260円で。

補足:うそこ大学『人力脳内説』の調査レポート(抜粋)

提出:なんでも都市伝説学部 × なんでも労働経済学部 合同研究

✅ 都市伝説の発生背景

  • 脳内メーカーの“結果がリアルすぎる”というユーザーの声が起源
  • 「自分の心が読まれている気がする」→「誰かが打ってる説」が登場
  • 2008年頃から掲示板やSNSで拡散、現在も定期的に再燃中

✅ 仮説の構成要素

要素考察
人力バイト存在説実在は確認できないが、求人広告「時給300円 脳内入力あり」と類似表現が見つかる
センター制全国の脳内メーカーを一括処理する“センター”があるという噂も
バイト動機「恨みがある人に“病”を送る」「恋人に“愛”を送りまくる」などの私的操作説も

🔍 労働経済的検証(なんでも労働経済学部)

  • 1漢字=0.5円とした場合、1時間で約720円相当の出力が可能
  • 精神的ストレスと倫理リスクを考慮すると、バイトとしての持続性に問題あり
  • ただし、“社会的罪悪感を背負う仕事”として小説や映像への応用価値は高い

🧾 結論

「もしかして、俺の“悩”も誰かが打ったのかと思うと……ちょっと許せてしまう」
― なんでも都市伝説学部 教授・綾茂ダナ


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